本性と本質
2023-12-23 (Sat)

一行が長くて読みづらいので、
実験的に2カラムにしています。
(スマホ表示は1カラムです)。

タルコフスキーの映画について考察めいた何かです。かなりネタバレして映画を観たことがない方にも内容がわかるようになっています。

何のてらいもなく自〇という表現を使っているので苦手な方はご注意を。

以下本題です。

『ストーカー』を観て思ったこと

タルコフスキー監督のSF映画『ストーカー』は、人間の本当の願いとは何かというテーマを含んでいる。

ゾーンと呼ばれる、何かが起こった謎の地帯。その奥に、入ればその人の本当の願いが叶うと噂される部屋があるという。

噂が本当かどうかもわからず、ストーカー(密猟者という意味)の案内でそれぞれ想いを秘めてゾーンに向かう物理学者と作家。

物理学者は世界の救済を、作家はインスピレーションを求めていた。

部屋への道のりには危険が伴い、そこへ繋がるトンネルは「肉挽き器」と呼ばれる。

なぜ自分で部屋の中に入らないのかと問われた案内人ストーカーは、ストーカーは部屋に入ってはいけないと答える。

先輩のストーカーは部屋へ入った後大金持ちになったが自殺し、実は彼の弟も「肉挽き器」で死んでいる、とストーカーは話す。

作家は自殺の原因に気づく。先輩のストーカーは、弟を生き返らせるためにゾーンに入った結果金持ちになり、絶望して死んだのだ。

本当の願いは、弟の命よりも金だったということに絶望したから自殺したのだ。

そうこうするうちに3人は部屋の前にたどり着く。しかし、作家は入ろうとしない。物理学者は爆弾を取り出し、部屋を破壊しようとした。それが物理学者の真の目的だったのだ。物理学者はゾーンが悪人に利用されることを恐れていた。しかしストーカーはゾーンこそが世界を救うカギだと信じている。物理学者とストーカーは揉みあいになり、物理学者はゾーンに来た理由がわからなくなって、手ずから爆弾を解体した。

けっきょく、誰も部屋には入らずに引き返すこととなった。

自分の本当の願いを知るのは恐ろしい。

先輩のストーカーが叶えた願いは、弟を蘇らせるという理想ではなく、金持ちになりたいという欲だった。ゾーンの気まぐれでどちらかが叶うとしても、欲が勝ってしまうという結果になった。

そうならないと言い切れる人がどれだけいるだろう。

欲は本性で、理想というか理性は本質であると私は思う。

本性が美しい人は多くは存在しないと思う。誰もが、ある種の原始的で利己的な本性を持っている。生きるために身につけた本能とも言い換えられる。

この場合理想とは、自由とか尊厳とかを求めることだ。自由というのは欲望から解放されて目的を実現するために行動することだ。

先輩のストーカーは、弟を蘇らせたい、弟が大切だ、という望みを本質的には抱えていていたが、ゾーンは欲を叶えた。しかしそれに絶望し命を絶つほどに、その願いは強いものだった。結果として、本質による行動を実行したことになる。それは彼の尊厳に基づく行動だったのではないだろうか。

他者を想うことこそ人間の魂なのだ、と証明したかったのかもしれない。本来の意味とは違うが〈尊厳死〉のようなというか。

本性も、本質も、生きる上では必要なものだと思う。しかしどちらかが過剰になっているとおそらくどこかで暮らしが破綻する。理想だけを求めて欲を満たさず抑圧して病気になってしまったり、欲を優先させるあまり目先の快楽に走り自己実現を逃したり夢を諦めざるを得なかったりする。

本性も、本質も、コントロールしたり、時には流されてみたりする。上手く出来ないときもあるかもしれないけれど、どちらかを排除していいとは思わない。

願いを叶えるという噂だけではなく、ゾーンの出現により奇妙な影響が広がっていて、ストーカーの娘が足は不自由だが念動力のような力を持っていたりした。

果たして、願いを叶えることが人類を救うのか、願いを叶えることに代償があるのか。

ゾーンとは災厄と救済、どちらの象徴なのか。

原作の主人公レドリックは悪人ではないが善良とも言えない荒れた男だった。

原作の一番最後は、レドリックのこんな独白で終わる。

これはおれの魂だ、人間の魂なんだ! さ、そっちで勝手におれが望んでいるものをおれから引きだしてみろ、おれが悪を望んでいるわけがないんだ!……そんなことはどうだっていい、おれはなにも考えることができんのだ、やつの言ったあのガキっぽいことばしか…… すべてのものに幸福をわけてやるぞ、タダだ。だれも不幸なままで帰しゃしないぞ!

(ストーカー (ハヤカワ文庫SF)
アルカジイ ストルガツキイ、ボリス ストルガツキイ、深見 弾)

最後に話は変わるけれど、ゾーンは、人間にとって救済なのか災厄なのかわからないまま降りかかるテクノロジーの進化を思わせる。それが将来何をもたらすかわからないままに、ときには良きものと信じられて人類の生活に溶け込んでいく。生活は便利になったし、少しずつよくなっている。しかし良さと悪さは同居することがあるし、むしろ一体でどちらかだけを選ぶことはできないのかもしれない。負の側面を受け入れながら、良いものをとり入れる。進歩とはそうするしかないのかもしれない。

・作品データ
ジャンル:SF芸術映画
製作年:1979年
製作国:ソ連
監督:アンドレイ・タルコフスキー
出演:アレクサンドル・カイダノフスキー、アナトリー・ソロニーツィン、アリーサ・フレインドリフほか
原作:『ストーカー』アルカジイ・ストルガツキー, ボリス・ストルガツキー(早川文庫)
DVD:アイ・ヴィー・シー ¥6,090(税込)

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